吐噶喇ラスト
午前中は朝食を済ませ少し散歩をする。
普段は散歩などしないが、旅先ではよく歩きまわる。
夜寝る前に星空を見ながら。
朝日や夕日をを見に行ったり。
夏場は特に太陽が高く昇る前、沈んだ後が汗をかかなくていい。
島が活気づいている。
祭り当日というのもあるだろうが、帰島した人達のおかげだろう。
例のマラ棒の広場に皆が集まっている。
広場に入ることが出来るということは、神々の準備は万全なのだろう。
後に知るが、ここは「テラ」と呼ばれる場所らしい。
その名の通り寺院が「あった」場所。
今は広場に小屋があるだけの場所。
通称「テラ」らしい。
前述の通りボゼはここに降りてくる。
そして役目を終えたボゼはここに帰ってくる。
具体的には使った衣装、道具、仮面をここで供養(?)するわけだ。
昨日より多くの人が集まっていた。
子供たちや観光客もたくさん集まっている。
大人は浴衣を着ているが、若者は着の身着のまま。
年齢的に恥ずかしいんだろうな、とほほえましく眺める。
昨日より多くの種類の踊りだ。
それぞれに題名があったが全然覚えていないので以下コピペ。
「長崎船」,「花踊り」,「コ ダシ踊り」,「俵踊り」,「財布踊り」,「魚釣り踊り」,「ハッパン大将」。
以上7種のらしい。
もちろんそれぞれに意味がある。
全部見たのかは記憶が定かではないが、浴衣をきちんと着た小さな女の子が楽しそうに踊っていたのが印象的だった。
テラでの踊りを終えると公民館の広場に移動し、盆踊りが始まる。
公民館はちょっとした坂の上にあった。
前には小さな広場。
この場所こそボゼが現れる場所。
そういえば前日教授が言っていた。
中くらいのボゼと、大きいボゼ、そして小さいボゼがいるんだと。
そして人々を追い回し、赤土をつけてまわるんだ、と。
小さいボゼに至っては家の中まで入ってきて子供を追い回すらしい。
こんな話を聞くたびにワクワクが止まらない。
テラと同じように一通り踊りを奉げる。
すると太鼓の音とともに、「ボゼがくっどー!!」の声。
歓声とともにボゼが茂みから現れた。
赤土と墨を塗りたくった縦じまの仮面。
むき出しの歯にお椀のような眼、高い鼻。
これまた赤土の塗られたビロウを身に纏い、腕にはシュロを巻いている。
なかなかの迫力。
これが日本の神なのか?
そんなことが改めて脳裏に浮かんだ。
思ってたよりだいぶデカい。
人プラス仮面だから、だいたいの大きさは想像していたけど迫力が加わり、実際よりだいぶでかく見える。
身につけたビロウやシュロも一役買っているようだ。
悲鳴や叫声をかき分けながら神々はボゼマラで人々に泥をつけてまわる。
けっこうべたべたな泥。
歓声を上げる大人、泣き叫ぶ子供たち。
そしてボゼに群がる観光客w
そういえばこの広場に移動した際に司会みたいなことをしているおに―さんが、遠回しに祭りの意義を説明しながら「逃げ回ってください」という内容のことを遠回しに言っていた。
こういう事なんだろう。
時間にして15分もなかったと思う。
ふと太鼓に合わせてでボゼが踊りだす。
しばらく踊ると子供たちを追い回しながらあっという間に去っていった。
短い時間だったが、それが逆に鮮烈だった。
ボゼが表れている最中に小さな子が「ねえねえ、おとーさんがいなくなった!」と何度も私に言ってきた。
「どこいったんだろうね。」
ととりあえずは言っといた。
大丈夫、もうしばらくしたら坂の下の方から帰ってくるから。
今年は当番なんだよ。
そういえば現れたボゼは全部同じ大きさだった。
「教授が言っていたのと違う」と思っていたが、どうやらボゼには種類があるらしいことを後に知る。
仮面の形の違いで「ハガマボゼ」、「ヒラボゼ」、そして子供を追い回す専門の小さなボゼ、「サガシボゼ」がいるらしい。
特にサガシボゼは毎年来るわけではないため、とても珍しいそうだ。
ボゼが去った後は緊張のピークを越えたのか一気に空気が緩んだ。
広場には小さなステージがありカラオケがなされている。
一曲やっとくか、と思ったがやめといた。
今考えりゃ、歌っときゃ良かった。
後悔先に立たず。
そのあとも残った島民によるお盆の踊りを見せてもらった。
中には前述の貴重な舞も含まれていた。
一番最後にはみんなで踊った。
島の子供を振り回して踊ってやった。
評判は良かったようだ。
もちろん島の大事な盆踊りじゃあない。
出発の日。
長い長い坂を軽トラで下る。
宝島も悪石島も短い滞在だったけど、ほんとうに濃密な時間だった。
血だらけで歩き回ったり、最高のギラギラを見たり、野宿を覚悟したり(2回)、財宝伝説に思いを馳せたり、坂道に絶望したり、念願の群青に出会ったり・・・。
四半世紀いろいろなところに行きいろいろな体験をした。
その中でも吐噶喇の旅は三本の指に入るものだった。
乗船し見送りの人たちに手を振る。
いつも「もっと居たい」と思うけれどそれは違う。
立ち寄るのと住むのは全く別物。
わかってはいるけど「いつかは」と思ってしまう。
次第には慣れていく島を見ながら、お互いまた日常に戻るんだなあなんて考えていた。
ふと海を見るとウミガメが一匹浮いていたのをよく覚えている。
カメラマンのにーちゃんや教授たち、民宿で一緒だったひとたちもいる。
そういえば平島でカメラマンのにーちゃんの写真集を手に入れる。
短い接岸時間で下船して持ってきてくれた。
平島に残り写真を撮るらしい。
帰りは東京からのご夫妻といろんな話をしながら過ごす。
話し相手のいる帰りは、あっという間。トカラの島々を抜け、屋久島、種子島。
そして薩摩富士、開聞岳が見えてくると旅は終わり。
いつもと変わらずきれいな三角形だった。
追記
翌年、金環日食で一躍有名になった悪石島。
当日は島に世界中から人が押し寄せた。
その際、もてなしのつもりだったのだろうがお盆とは関係なくボゼを出した。
すると金環日食当日、急な暴風雨に見舞われて日食を見ることは叶わなかったという。
ホントウのお話。
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